先に進んでも、必要なだけ立ち止まっていてもいい。
2022年1月開催の読書会で出会った詩集。
読書会で本書をお勧めいただいた方のつながりで、本書の制作協力をされている株式会社ビーナイスさんのサイトより直接購入した作品。納品時には「紙ホチキスのやさしい製本になっていますので、カバーを外してみてご覧いただければと思います」とのメッセージも同封いただいた。
「特装版」とあるだけに、装丁にも本書の制作で携わった方の思いが隅々まで行き渡り、小さく軽い作りなのに、どこか持ち重りがするような1冊。1冊ずつ、ビーナイスさんで製本しているとあらかじめ聞いていたこともあってか、紙の手触りまで味わいながら、1ページ1ページゆっくりと丁寧にめくっていきたくなる。指先の感覚をこれほどに繊細に味わいながら本のページをめくった経験はなかなかないものだ。
安達さんの詩とイラストは、「A」から「Z」まで順番にひとつずつ掲載されている。
少しクリーム色がかった程よい厚みと張りのある紙質も、万年筆のブルーブラックインクのような文字色やどこか懐かしさを感じさせる書体も、十分に取られた余白、ページ番号のない仕様も、安達さんの詩と一体となって居心地のよい時間を作ってくれる。それは、先に進んでもいいし、必要なだけ立ち止まっていてもいい、という、やわらかな時間だ。
“炎を前にすると話が弾んだ。”
心惹かれたいくつかの詩の中から、ひとつだけ抜粋させていただく。
CAMPFIRE MADE US TALK. 炎を前にすると話が弾んだ。
この詩を目にした時、昨年訃報に接した友人と過ごした場面が思い起こされた。
ダンスやヨガが好きで、おしゃべりが好きで、聞き上手な人だった。職場からほど近い、小ざっぱりとしたレストランでワインを囲み、よもやま話に花を咲かせた日を思い出す。2月下旬のまだ寒い頃だった。
出会って間もない頃だったけれど、ほろ酔い加減にあれこれ話しているうちに共通の趣味や友人同士の繋がりがあったことがわかり、場は盛り上がるばかり。あっという間に閉店時間になってしまった。数年前のことなのに、ずっと遠い日の思い出のように懐かしい。
楽しい時間を再び共に過ごすことが叶わぬ寂しさは、日を追うごとに増すばかりだ。しかし、キャンプファイヤーを囲んだかのようなこのあたたかな記憶が、大切な人を失ったという寂しさだけではなく、友人との新たな絆を育んでくれていることにも気づいている。安達さんの作品は、そんな小さな心の変化を見守ってくれているかのようだ。
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